毒ガスですかね?
連れが言う。
だったらここで死んでもいいよ(笑)。
ボクが応える。
煙は徐々にグラウンド全体に満ち、カクテル光線に照らされて幻想的な景色を創る。
ボクの夢心地は、一層加速する。
幕張のカモメには、霧なんて気にならないらしい。
ヒットが重なり、合間には、里崎、ベニーのホームラン。
ほとんど見えなかったが、むしろ印象的だった。
霧が濃くなる。
対角線上にあるバックスクリーンは完全に消え、電光だけが浮かんでいる。
試合が中断する。
タイガースファンには感心した。
ひたすら応援のコールを止めない。
そして、ボクの左側、50メートルぐらいのところにいるタイガースファンの一群が、
ウェーブを始める。
最初は誰も相手にしない。
一人がマリーンズ側へも来て、熱心にけしかける。
徐々にウェーブは繋がり出す。
二階から始まった波は、3塁側を渡り、レフトのタイガースファンに繋がる。
そして何度かの後、バックスクリーンを挟んで死角にあるはずのマリーンズファンに届き、
三塁側からは拍手と歓声が上がる。
一塁側の奥からは、一階も巻き込んで二層になりながら、周り出す。
後で知ったのだが、バックスクリーンを跨ぐ時には、裏の通路に両チームのファンが並んで、
合図を受け渡していたらしい。
何故かウェーブを待ち受ける時にコールが上がる。
オィッ、オィッ、オィッ、オィッ、オィッ、オィッ、
10周近くしただろうか。
バックスクリーンを跨ぐたびに歓声が大きくなる。
両チームのファンが一つになって、試合を待っている。
マリーンズの選手も、ダッグアウトからスタンドを見上げ、
自分達のところへ来ると、一緒になって両手を挙げる。
霧の中の邂逅。
しかし、審判団がグラウンドに出ると、全体がそれを注視し、
主審が、ホームベース上に立つと、溜息が上がる。
主審はバックネットに向いて、右手を差し上げる。
試合終了。
それまで一つになっていたスタンドは、明暗がくっきりと分かれる。
僕たちは、あらん限りの声で、マリーンズの応援歌を唱う。
スタンドを後に階段を下りていると、どこからか歌声が聞こえ出し、
一気にそれは飛び火して、また合唱になる。
俺達の〜誇り〜千葉マリーンズ〜♪
もの凄く引火しやすくなってるよね。
阪神ファンなら普通なのかも知れないけどね。
連れと笑い合う。
スタジアムを出て、帰途への列に入りつつ、後ろを振り返る。
マリンスタジアムが霧の中に沈み、カクテル光線が滲んでいる。
映画に出てくる巨大な宇宙船みたいだと思った。
自分がさっきまであそこに居たんだと思うと、そこを去ってしまう事がためらわれた。
バスで幕張本郷に行き、津田沼へ出る。
電車の中で、タイガースの応援団のオッサン達の一団と呉越同舟になる。
僕たちは、いつもはスタジアムを出るとユニフォームを脱いでしまうが、
この日ばかりは、連れと揃ってユニフォーム姿だ。
一触即発かと思いきや、彼らが随分とヘコんでいる。
あかんわ。
井口(ホワイトソックス)連れてくるわ。
まだ一試合終わっただけなのに、意外と大人しい人たちなんだな。
津田沼では、終電を気にしつつ、連れと祝杯をあげに、駅前の居酒屋に行く。
相変わらずユニフォーム姿だ。
おめでとう!やったね!
駅前を歩く僕たちに声が掛かる。
僕たちは、手を挙げ、それに応える。
居酒屋では、通された席に愕然とする。
席中、白いユニフォームのマリーンズファン。
チェーン店なのに、大型テレビで中継をやっていたらしい。
そこに、次々と試合帰りのファンが加わり、
ボクが幼い頃、川崎でファンクラブに入っていたと言うと、
川崎時代を知るコアなファンに捕まってしまい、
いつの間にか終電も忘れて盛り上がり、夜が更けた。
こんな日が来たんだ、としみじみ思う。

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