ボクが羽織ったのは、マリーンズのユニフォーム。
ちなみにギザギザのデザインの誠バージョン。
一度入場してから着るって事にしてたやつだ。
てか、応援の時とかは前は開けっ放しなんだけれど、
なぜかキャプテンは前のボタンを全部とめてくれたりした。
司会の人。
「昨年、新婦が新郎に連れられて行った5試合中、4試合がサヨナラ勝ち。
彼女は、勝利の女神なのかもしれません。
今日は皆様に新郎新婦から勝利の美酒の
プレゼントを・・・」云々。
ボクは
ビールのタンクを担ぐ。
ずっしり来るそれに、力の入れ具合が分からず、危うく
ラストシュートの時のガンダムの様に(?)膝からくずおれそうになりつつ。
BGMは、ようやく再入場の時のCristal Kayから、『WE LOVE MARINES』に変わる。
ボクが番組を作っていた時には、画面が変わる前にBGMを先行させる、
っていう演出方法をよく使った。
こっちの方がパンチがあって、テンポが出るし。
だからさっきはBGMの出にこだわったのだが、まぁ、仕方ないか。
っていうか、相変わらず、追いつめられてても、妙なところに力が入るもんだ。
キャンドルサービスの代わりに、テーブルを回り、
時間の都合もあって、くじに当たった人にボクがビールを注いで、
彼女がその他の人も含め、おつまみを渡した。
くじのストローを入れるのに使ったのは、
この前行ったマリンスタジアムから持って来た、
マリーンズロゴの入った生ビールの紙コップ、
おつまみは彼女がどっかで買ってきたナッツの小袋と、
マリンスタジアムで売っていたメイプルクッキーだった。
彼女が、ドレスのために自由が利かなかったのもあったそうだが、
おつまみを、近くにいる人にテーブルを回す様にとまとめて渡していたのが笑えた。
しかし、このビアサーバー、上手く注げず、泡だけになっちゃって、多いに肴にされた。
ドレスとの格闘の仕方とビアサーバーの注ぎ方はリハーサルにはなかった。
球宴って書いたのはそーんな他愛のない事があったからだ。
ちなみに、会場にはそこかしこに旗やサインボールなど、
マリーンズグッズを配していて、多かれ少なかれ、
このユニフォーム姿みたいな展開は予想できる人もいたらしい。
実はウェルカムボードにも、マリーンズ選手のベースボールカードを貼っていて、
中には僕ら二人がマリンスタジアムで撮ってもらったスナップを、
ベースボールカード風にボクが作ったのも混ぜていたのだけれど、
やっぱりこの地味なこだわりは、ほとんどの人にスルーされたことだろう。
冷笑を覚悟したが、来賓の懐の深さに救われ、
仮想大賞の『合格はさておき頑張った子供』に与えられる様な笑いに包まれて、
まぁ、やってよかったと思った。
ところで、会場選びの時、マーくんとかチアリーダーを呼んじゃおうか、
という話にもなったが、
セットで30万とのこと、逡巡して止めたが、
ここまでやるなら、やっぱりやっちゃった方が良かったかも知れない。
友人の言葉をもらう。
ボクの友達は、もう20年近い付き合いになるバイト時代の後輩で、
元総理の顧問弁護士の秘書を努める実直なヤツだ。
独特な節回しがあって、彼を知らない友達に受けていたが、
いい意味で期待を裏切り、とてもいいスピーチをしてくれた。
彼女の友達は、スピーチの後、4人で唄ってくれた。
ケータイのメモを見つつというのが新鮮だったが、
何より、友達も彼女も泣き出してしまい、ボクはその友達(女性)に、
「大事な友達を取られちゃう気がする」と言われたり、
とにかく、本当にいい友達なんだなぁ、と思った。
事前に
メイクさんに彼女が泣いてしまった時のハンカチの使い方を教わっていたが、
うまくできなくて、そのまんま渡した。
いずれにせよ、この日、彼女の感情が初めて素で出た、いい瞬間だった。
ケーキバイキング。
テラスの庇の下にケーキが並ぶ。
僕たちはキャプテンに導かれてその横に立っていたが、
どうやらシャッターチャンスだったらしいものの、
張りボテに慣れつつあったボクが気づいたのは、ほぼ人がはけた後だった。
ちなみに、この時、さっきまでの荒天はすっかり収まっていた。
ケーキは、菓子職人風のスタッフの手で来賓に取り分けられていた。
ウェディングケーキと、あとはプチケーキが一杯あってキレイで、
普段あまりケーキを口にしないボクもちょっと食べたかったけど、
当たり前に実現しなかった。
ただ、ファーストバイトの時のウェディングケーキは凄く美味かった。
あんなもん、形だけだと思っていたが、ケーキ職人さん、すみませんでした。
席に戻って、テーブルにあった魚と肉の皿を
それぞれ箸で素早くつまんだら美味しかった。
彼女は相変わらず食べようとしないので残っているのがもったいなくて、
お腹空いてたし、手を出そうとしたけれど、やっぱり実現は見送った。
ほどなく、二人はテーブルの前に立たされ、
キャプテンから手渡された手紙が彼女の手の中にあった。
彼女は涙に詰まりながらも両親への手紙を読み切る。
この手紙は、前日彼女が一人で書いていた。
何となくボクは近くにいちゃいけない気がして、
彼女を一人リビングに残して、寝室でガンダム本かなんか読んで待っていたものだ。
その時、リビングには、彼女のリクエストで、ボクのマックのiTunesから、
オフコースが掛かっていた。
朗読の途中、途中で初めて気づいたが、対面、会場の末席の後ろには、
互いの両親が並んで立っていた。
手紙の後、僕たちは赤い花束を渡され、
それを持って、テーブルの間を縫って両親の前に進み、
互いの両親にその花束を手渡した。
渡す時、父母どちらにしたものか、何を言ったらいいものか、
一瞬考えたが、父を見つつ母に、「ありがとう」か何か言って渡したと思う。
そのまま僕たちは両親の列の真ん中に収まり、
ボクの父の列席者への挨拶が済んで、ボクの番になった。
周りはどう思ったかさて置き、びっくりするほど淀みなく言えた
・・・Mission Completed。
両親も含め僕らはテラスに出た。
テラスでは、今日を切り盛りしてくれた若い会場係の面々が、
「おめでとうございます!」と若い声と拍手で迎えてくれたのが清々しかった。
キャプテン以下を従え、僕らの前に立ったプロデューサーが、
改めて祝いと締めの言葉をくれたのには、なにやら気が引き締まって鳥肌が立った。
このプロデューサーはボクより10歳程度上、25年も
ブライダルを仕切っているという、
ジェントルを絵に描いた様な人で、準備中、本当にお世話になった。
この人の改まった顔を見て、これで終わりなんだ、
という達成感と寂寥感の合いまった感覚が、鳥肌になったのかも知れない。
その後、
ダイニングのテラス側のガラス戸を出て来る来賓を送った。
一連、こうした時にそうだった様に、ボクは最後まで、
お祝いを言ってくれたりする来賓に、とにかく頭を下げて、
精一杯笑顔を浮かべつつ、誰の顔も見ていなかった気がする。
いや、感謝してないってわけじゃなくて。
会場を飾ってくれた黄色い花は、せっかくだし、花束にして渡せる様にしていた。
数を数えると女性の来賓と合うはずだったが、
途中から挨拶と笑顔と粗品の手渡しなどで、ワケが分からなくなってしまい、
男性に渡したりして、最後は足りなくなって何となくごまかした。
逆に誰かに渡しそびれたのかも知れないが、
粗品に用意していたハート形の入浴剤が残ってしまったので、
プロデューサーに渡したら、「私は風呂好きなんです」と、
最初から最後まで、訊いてもいないのにサービス精神旺盛なコメントと笑顔と共に
受け取ってもらえたのが、何とも嬉しかった。
あらかた来賓が退出した後、彼女の友達が貧血で残っていると知らされた。
僕らはそのテーブルに行ったが、周りに友人がついていて、
ほどなく彼女を抱えて出て行った。
気づくと、余韻に浸る間もなく、早速スタッフが片付けをしていた。
仕方ないのだが、ちょっとだけでも、人気のなくなった宴の後の中にいたかった。
ほどなく呼び止められて、お色直しの記念撮影になった。
式の前と同じくいろんなポーズを取らされたが、
この時はガッツポーズでもなんでもいいや、と応じる事ができた。
すっかり日が暮れて、灯りの落ちた邸宅外の道をプロデューサーと一緒に歩き、
階段を上ってメインの建物に入って、メイク室に戻った。
我が家に戻った様にホッとしたのを覚えている。
ここに最初に入ったのが、確か1時、そしてこの時が7時過ぎ。
早回しのカレイドスコープかメリーゴーランドみたいな一日だった。
互いに衣装を脱ぎ、着て来た普段着に着替え、
手際良くまとめられていたウェルカムボードとかを仕分けて、
配送の手配を頼んで、この我が家を後にした。
そう言えば、理由は知らぬが、今日の写真のアルバムを、
サンプルとして使いたいというカメラさんの申し出があって、
異存はないので首を縦に振った。
ボクみたいな不似合いなヤツでも、それなりに何とかなるって、
後に来る無粋な男の助けになればいいな、そんな風に思った自分が愉快だった。
預けても尚重い荷物もあって、タクシーをお願いした。
待つ間、これまで何度も通った時に何度も座ったロビーの
ソファに腰掛けて
全て終わったんだと思った。
いや、これから始まるんだな、そんなベタな決心も同時に新たにした。
タクシーが来たと呼ばれて、門の外に出た。
夜空の中程にやや右がかった下弦の月が出ていた。
今日の天気、一連を思い返して見上げつつ、彼女にも指差してみせると、
「薄っ(い月)!」と風情を解さぬ一言に、膝かっくんな気分だった。
けれど、彼女もいつも通りに戻ったんだな、と思った。
花嫁姿には痺れたけど、やっぱりいつも通りが一番だ、
ボクは、月から目を離さないまま、そう思った。